会社設立にあたって、同時に本を出そうと思いました。「法人」となるにあたり、会社に興味を持っていただけた方に、ぼくがどんなことを考えているのか、できるかぎり説明したかったのです。
でも、とても読みづらい本になってしまいました……
- ページ数550以上……
- 電子書籍版は、――精神分析家ジャック・ラカンの「斜線の引かれたS(主体)」や「斜線の引かれたA(他者)」など特殊フォントを使っているため――リフロー版(読者が読みやすい文字の大きさに調整できる版式)にすることが不可能。このため文字がとても小さくて読みづらい……
- ITエンジニア向けの技術書なのか「哲学」書なのか、正体不明……
- 典型的な三流論文的な文体で書かれている……
Amazon Kindle出版するまえに、草稿を見たパートナーは「私は本屋にあっても手にとらないだろう」とはっきり言っていました(笑)。
ぼくは、1987年に文系の大学生になりました。当時は、いわゆる「ニューアカ」ブームの時代で、ぼくも哲学書オタクのひとりでした。大学を出たら、サブカル評論家になって、好きな音楽や映画や絵画について文章を書ければいいな、と考えていました。その後、いろいろなことがあって(売れない)ミュージシャンとなり、95年にIT革命が到来し、当時プログラミングができる人材が少なくなったせいもあって、ITエンジニアとしての仕事を始めました。
ITを本職してからというもの、ぼくは自分自身が、学生時代に哲学書と芸術書を読みあさっていた自分と、ミュージシャンになりたかった自分と、プログラミングしている自分とに引き裂かれているように感じていて、ずっと悩んでいました(だから、ラカンの”斜線の引かれた”主体フォントが、この本には必要でした)。ぼくは、ITエンジニアになってから、なんとなく不満だらけの日常を送っていました。不満だらけのぼくの周囲にいた人たちは、ほんとうに大変だったと思います。不満だらけの人生は、身を滅ぼしました。とりあえず、環境を変えようと、ぼくは2012年にベルリンへ移住しました。
44歳で始めた海外生活は、いろいろな苦労もありましたが、ドイツ的な働き方/生き方が、ぼくに好影響を与えたのでしょう。ワークライフバランスを理解しているクライアントに恵まれたこともあり、ミュージシャン活動とITエンジニア生活の両立ができるようになりました。それは、プログラミングをやったり、音楽をやったり、哲学したり、自分のやりたいことのどれをも犠牲にすることなく生きることができる、という、”あたりまえ”のことでした。楽器を演奏するのと同じように、絵を描くのと同じように、ぼくはベルリンで、プログラミングしたり、データベース設計(データモデリング)をしたり、ITアーキテクチャ設計をしたりすることができるようになりました。
2023年、半月板を損傷して楽器(コントラバス)を運ぶできなくなってしまったことと、日本の家族の事故もあって、ぼくは故郷、神戸に戻ることに決めました。神戸に帰ってまずやりたかったことが、日本語で書かれた本をたくさん読むことでした。ベルリンでは、ドイツの哲学者の原書や、英語で書かれたIT技術書や哲学書を収集していたのですが、哲学書を原文で読むことは、かなり難しかったからです。「ああ、こんなとき、日本語訳の本を簡単に手に入れることができたらな…」と、いつもベルリンで感じていました。
日本に戻ったら、もう一度、日本語で書かれた本を読み漁りたい。そして、ITと哲学と芸術をつなげ、今こそ自分なりに言語化したい。ラカンの「欲望のグラフ」など哲学書における世界像モデルと、データベース設計で用いられる概念データモデルをクロスさせて、絵を描いてみたい。そして、なぜ自分がITエンジニアとして生きてきたのか、その理由を死ぬ前にキチンと言語化してみたい。神戸に帰郷して、ぼくは、すぐにその作業にとりかかりました。
さて、手にとりにくい本に見えますが(笑)、たとえば、以下のようなことが考察されています。
- (トルコ発ではない)ベルリン発のソウルフード・ケバブはなぜ生まれたか?
- TikTokのシステムはどのようにつくられたか?
- なぜ「既読無視」「未読無視」で心が病むのか?
- ひろゆきは典型的な理系か?
- 京アニ放火事件の青葉真司は、なぜテロリストになったのか?(ゲーム理論的な考察)
- ジャズのアドリブと、ヴィトゲンシュタインの言語ゲームの共通点
- 『オリエント急行殺人事件』やロックバンドのファミリーツリーから考える家族論
- 文系の知 vs 理系の知の差異を図式化すると?
- アニメーター金田伊功が描いたリアリズムとはなにか?
- 哲学者ヴィトゲンシュタインとデータベース正規化理論のC.J.デイトの共通点とは?
- サプライチェーンと「誤配」(by ジャック・デリダ、東浩紀)をつなげ、データモデリングすると?
- データベースとはなにか?
- 物語とはなにか?
- ゲームとはなにか?
などなど。460点を超える図解もあり、とにかく絵が多いです。モデルの絵本です。
ぜひ、お読みください。
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